日本葬送文化学会 平成22年度 6月定例会報告
部会発表「看取り・遺体関連部会」
看取り・遺体関連部会では、前回の発表を踏まえて、死因や死亡場所の多様化と複雑化と葬儀業界の多様化・他業種化の関連性の観点から考察を行い、発表を行うこととする。
開催日時
日時:平成22年6月17日(木)午後6時30分より
会場:東京文化会館 4階 大会議室
発表概要
部会長 荒木由光
谷 荘吉 村田和隆 新井重克 大杉実生
和田裕助 福田 充 須永真紀
はじめに
本部会の前回の発表は、現代の死亡場所の考察から始め、葬儀が実施されるまでの葬儀会社の業務および、遺体の動きについて考察を行った。その結果、@高齢者の自宅での死亡者数が徐々に増加してきていることと、A家族形態の変化による死亡の実態と法律が乖離していること、B葬儀業種の多様化と問題点及び葬儀が施行されるまでの3つについて、大筋を明らかにした。だが、葬儀が実施される経緯において、「事前相談や生前予約」、「葬儀の依頼があるパターン」、「搬送・打ち合わせ」の3つを指摘するだけに留まってしまったため、葬儀会社の業務内容について十分な考察ができなかった。よって、今回の発表では、葬儀会社が葬儀の依頼を受けるまでの経緯について、考察を加える。
この課題を考察するにあたり、まず、一般的な死亡場所である病院が葬儀会社に業務委託をすることに着目し、病院による委託業務について考察を行う。次に、死亡者が徐々に増加しつつある老人ホームに着目し、葬儀業務および看取りと関連付けて述べることとした。なお、本部会の看取りの範囲は、一般的な臨終と限定するのではなく、死者をこの世から看取ると設定しているため、葬儀から火葬後の拾骨までとする。
1.病院内における葬儀会社の役割
病院における葬儀会社の業務範囲:葬儀の依頼があろうとなかろうと、遺体が病院から出るまでを担当する
病院からの業務の連絡を待つことが、仕事の割合を大きく占める
※いつ発生するかわからないため、常に、事務所で、誰かが待機しなければならない
※病院で請け負った通夜や葬儀で、複数人、事務所を離れることがあっても、病院から連絡があれば、
誰かが戻り、病院へ向わなければならない。
※現在、病院業務の約8割の人たちはすでに葬儀会社を決めているケースが多い
病院から仕事がはいったところで、必ずしも葬儀の受注になるとは限らない
※病院の葬儀の依頼実績:4月期9件中2件(直葬と家族葬)
5月期8件中2件(直葬と家族葬)
【病院業務のメリットとデメリット】
メリット : いち早く遺族と接触するので、葬儀の受注のチャンスがある
デメリット: 昔は、病院関連で多くの葬儀を受注することができたが、現在は違う。
→ 人件費や事務所の維持費などの必要経費の問題
【具体的な業務内容】
A 病院から死亡の連絡が入ったら、可能な限り早く駆けつけ、霊安室の鍵を受け取る。
・鍵は、警備員から受け取る。このとき、管理台帳に、氏名と鍵の受け取り時間を記入
病院を出るときは、その時間を返却時間の欄に記入し、警備員に鍵を返却する
・受け取った後、霊安室およびロッカーのある部屋、待合室、車寄せのドアの4箇所を開錠
・二名一組で行動をする
B 遺体を霊安室に移動させるために、病室に向かう
・解剖室の脇に設置されているロッカーから、白衣を取り出し着用
移動する際には、あらかじめ、手袋を着用する
・霊安室にあるストレッチャーを持って、病室に向かう
図1 霊安室等の配置図
C 病室から霊安室に遺体を移動する
・病室から霊安室に向かう際、遺族に自分が葬儀会社の人間であることを明らかにし、その後、
どうするかを、簡単にヒアリング
※この際、病室から、霊安室に運ぶ業務は自分たちが請け負っていることを述べる
・遺族が葬儀会社を決定している場合 → 速やかに、依頼する葬儀会社に連絡を入れ、
遺体を取りに来るように依頼してもらう
・遺族が葬儀会社を決定していない場合
→費用・葬儀の規模などについて聞き、それに応じたプランを簡単に提示する
※どこの火葬場を利用するのかということと葬儀会館の具体的な名前を出すようにする
ただし、ここでは詳細に話を持っていかず、2〜3件程度の例示にとどめる
・解剖が実施される場合
→解剖室のドアの開錠をしたのちに、病室へ向かう。解剖室に到着後、遺体が着用している
浴衣などの衣類を脱がせ、身長と体重を図り、解剖台へ乗せる。
・解剖が実施されている間、葬儀会社は、控え室で待機
・解剖が終了したら、遺体をきれいにした後、浴衣などの衣類を着せて、霊安室へ移動
D 霊安室から病院を出発するまで
・葬儀を他社に依頼した場合:遺族が葬儀を依頼した業者が、到着するまで、防水シーツに遺体を
くるんだままにしておき、引き渡す
・葬儀を自社に依頼した場合:霊安室到着後、葬儀費用や規模など、葬儀の大まかな打ち合わせを行う
少なくとも、葬儀の場所と火葬場の時間は決めるようにする
なお、葬儀の時間まで、日にちがある場合は、火葬場の冷蔵庫に預けるか、
病院の霊安室を借りて保管するかのいずれかになる
※病院の霊安室を利用した保管となった場合は、遺体の保管責任の観点から、
自社に葬儀を依頼されたときのみ。そうなった場合は、速やかに、
病院の施設の管理者に許可をとる
※病院に保管するのは、家や火葬場の冷蔵庫に安置すると、
搬送や場所代などの料金や手間がかかることによる
※遺族によっては、葬儀会社の選定を家に一度帰って行う場合がある
なお、家に一度、遺族が戻った場合、葬儀会社は、遺族が戻ってくるまで
に霊安室で待機
※生活保護者や身寄りがない人の場合は、役所に届出をするなど事務的な
処理から火葬の手配までを葬儀会社が行う。入院患者が死亡した場合、
遺体の引き取り手がいないということはまずない
・寝台車が到着し、病院から出棺されるとき
※必ず、故人がいた病室のナースセンターに電話をかけ、医師や看護師が出棺を見送るかどうかを確認
見送りがある場合は、医師や看護師が霊安室に到着するまで待ち、最後のお別れをすませてから出棺
E 納棺のタイミング
@一度、家に遺体を返す場合 → 大半は納棺されず、自宅で納棺
A病院の霊安室で保管する場合 → 保管の関係上、納棺を霊安室で行う
B火葬場などの冷蔵庫に保管する場合 →遺体を預かる条件に、納棺されていることを規定している
火葬場があるときには、納棺をする
・遺体の保存のため早めが良いものの、状況によって異なる
・遺族がいる場合は、なるべく遺族にも参加してもらう。いない場合は、先に、葬儀会社が納棺をする。
近年の傾向では納棺をしておいてほしいと頼む遺族が増加
棺の中に入れるもの
・納棺時、お通夜前、出棺前のお別れ時、沢山ある、いつ、何を入れてもよい
・防腐処置のためドライアイスと必要に応じ消臭処理のため消臭剤を入れる
・金属、プラスチック、カーボン、厚い本、スイカ、メロンなど燃えない物以外は何でも入れてよい
・浄土真宗以外の仏教は仏衣、神道は神衣を着せる又は被せる
大半の遺体は、浴衣を着用しているが、まれに、洋服を着ている場合がある
あらかじめ遺族が看護師に洋服を渡しておくか、故人が意思表示しているかのどちらか
2 老人施設での葬儀
・死亡場所を概観すると、介護老人保健施設と老人ホームの死亡者数の増加が目立つ
東京都の場合、老人ホームでの死亡者数は、平成12年度に1000人を突破してから、増加の一途
→高齢者の葬儀が多く実施されていることを示す
・老人ホームは、生きている間は、日常生活の場所となっているが、入居者が死亡した場合は、状況が変化
※入居していた人が亡くなった場合、他の入居者たちに、その死が積極的に伝えられることはない。
※体調が悪くなると、医師にみせたと、自分の部屋で寝ているか、職員の人の近くの部屋や看護師がいる
部屋に移動。それでも無理そうなら、医師の診察を後、入院するか、施設にとどまって様子をみる
※入居者が入院先の病院や施設内で死亡した場合:施設内で、かかりつけの医師による死亡診断がなされるか、
病院に搬送され、死亡の確認となる
※その後、多くの場合、遺体は、施設に戻ることなく自宅や葬儀会館・火葬場の冷蔵庫に保管され、葬儀
→施設内での通夜や告別式はほとんど実施されていない現状
A 一般的な老人ホーム内で死亡してから、葬儀までの流れ
事例1
故人は、1999年から老人ホームを転々とし、終の棲家となる老人ホームに入所したのは、2001年8月。
この施設に入所したと同時に、住んでいた家を引き払ったため、故人の生活の場面は、全て施設に移行。
【死亡までの経緯】
施設内で意識がなくなる→病院へ緊急搬送(職員2名が付き添う)→家族へ連絡
→家族が病院へ到着すると同時に、職員は施設へ帰る→病院内で死亡が確認
→葬儀を依頼する葬儀会社の会館や火葬場の冷蔵庫または、自宅に搬送
→このときに、施設に連絡をいれる。葬儀の日時やどういう葬儀をするのか聞かれたので、
日時と家族葬であることを伝えた
・故人が使っていた荷物は、ダンボールにいれて片付けられることを告げられる
→本人が入会していた葬儀会社を利用し、葬儀。戸田斎場にて火葬
→死亡してから10日後に、施設に行き、遺品を引き取る。
・施設にいくと、別室に通され、故人が所属していた部屋の担当者が、ダンボールを持ってきた。
職員の立会いのもと、遺品を確認。また、あわせて、施設に預けていた通帳や領収書などが返還された。
・不要なものは1箱500円を出せば施設で処分することができた。
ダンボール2箱のうち、大半は生活用品や衣類だったため、必要なものを除いてはすべて、廃棄処分
・故人が死亡したのは、2008年6月24日だったので、施設費用は、日割り計算
・施設では、入居希望者の申請をしていた人に、入居が可能になった連絡をいれたものの、
この時点では未定とのことだった→申し込んでみたものの、順番がもっと遅いと思っていた人が多い
B 老人ホーム内で葬儀が施工された事例
事例2
・兵庫の特別養護老人ホーム(100人収容):3年間勤務していた間に、19人を看取る
そのうち、本人の意向や家族の要請もあり、施設内で看取りをすることがあった
・通夜・葬儀を、施設の会議室・玄関ロビーで実施。出棺の時は、玄関から見送った
・納棺のときは、施設で同居をされていた人々が訪れ、お花を添えてお別れをした
・終了後、「私も、このようにして下さい」と請願する入居者がいた
C 葬儀の依頼
・施設に入居している人と、あらかじめ個別に契約していたために依頼
・施設からの直接依頼
※ただし、老人ホームでできない場合は、小さい会館を利用した葬儀となる
・実際、老人ホームで行われた葬儀は、部屋に、少し花を置き、入居者やスタッフの人が献花に訪れた
・葬儀を老人ホーム内で行う
メリット:
@自分が死んだ後、どのような通夜・葬儀が行われるのかということが、明確にわかる
A親しかった人や施設の人が参列してくれるため、余計な気遣いが少ない
デメリット:
@葬儀や通夜を想定していない老人ホーム場合は場所の検討が必要
A入居者への影響→悲壮感だけにならないような配慮が必要
おわりに
今回の発表では、葬儀会社の業務に焦点を絞り、病院の委託業務と老人ホームでの葬儀について考察を行った。その結果、病院の業務は、葬儀会社が葬儀の仕事を手に入れるチャンスの1つでることには変わりがないが、遺族が病院にいる葬儀会社に葬儀を受注することは、非常に低い確率であることが判明した。また、入院していた人が、死者となった時点で、医師から葬儀会社へと、携わる人間が明確に変わることが読み取れる業務でもあることも明らかにした。
生者から死者となった瞬間に、明確に変化する場所のひとつに、老人ホームがある。老人ホームは、高齢者が多いにもかかわらず、死が、生活の場所から隔離されている。それは、施設内での通夜や告別式はほとんど実施されていないことから読み取ることができる。業務の視点から見てみると、病院の場合は、役割分担という形で、医師と葬儀会社の役割が明確になっている。一方で、老人ホームの場合は、葬儀会社を施設から遠ざけることが多く、また、入居者の死について、積極的に他の入居者に語ることをしようとはしない傾向がみられる。次に、場所という視点からみると、病院の霊安室と老人ホームが共通している点は、古典的な日本人の過剰な死に対する考えが見受けられることにある。誰かが亡くなったことで、患者や入居者がショックを受けることを防ぐ配慮の結果、死を不自然に隠すことや目立たない場所に霊安室が設置されているのではないだろうか。また、病院や老人ホームの評判にもつながりかねないという懸念もあるだろう。こうした状況の中で、わずかながらも、葬儀やお通夜ができる老人ホームの登場や最上階に霊安室が設置された病院が作られたのは、評価されるべきではないだろうか。
本部会では、これまで、葬儀を実施する最初の段階の看取り・遺体・搬送の3つをキーワードに発表を行ってきた。一連の発表を通して、どういう総論を導き出すかということが、今後の部会の大きな課題となる。遺体・看取り・搬送業務から葬儀を再考し、社会的な意義を考慮しつつ、総論にむけて取組んでいきたい。
以 上