4月 定例会発表 「これからの霊柩車〈誕生〜現在〜 〉」

社団法人 全国霊柩自動車協会 専務理事 岩淵 篤 氏

 

はじめに

 

 遺体・搬送部会では、遺体搬送業務における問題点と現状について学ぶため、社団法人全国霊柩自動車協会の岩淵篤氏を講師に招き、講演をしていただいた。国土交通省は、平成211月以降、「道路運送車両の保安基準を定める公示」(国土交通省公示第619号の一部改正)により、すべて乗用車に、補助制動灯が義務付けられるとともに、自動車に突起物がある装飾されてはならないという規定を制定した。この規定が適応されると、突起物が多く装飾もふんだんに施されている宮型の霊柩車の存続が危うくなる。

こうした霊柩車をめぐる社会的背景をふまえ、岩淵氏は、日本に霊柩車が誕生してから現在までの動向と現在の霊柩車が直面している問題について、講演を行った。

 


 

写真1 全霊協のステッカー

全霊協のHPより

 

 

 

全国霊柩自動車協会について

 

 全国霊柩自動車協会(以下、全霊協と表記)は、遺体を輸送対象とする運送事業者で組織された、業界唯一の全国団体である。昭和21年に任意団体として創設、昭和50年に公益法人の認可を受け「社団法人全国霊柩自動車協会」となった。全霊協の設立の目的は、一般貨物自動車輸送事業(霊柩)の適正な運営および公正な競争を確保し、事業の健全な発展を促進することを目的としている。また、公共の福祉の増進に寄与することも目的としている。全霊協の事業内容は、霊柩車に関する調査から法務対策事業、福祉活動までと多岐に及ぶ。ご遺族に安心して霊柩車を利用してもらうために、会員の搬送業者には、このステッカーを配布している。これは、葬儀会社がサービスの一環で行っている白ナンバー車両での搬送の問題や、搬送が許可されている緑ナンバーの業者でも消費者との間に問題が起こっているという現状による。そのほか、大災害が起きたとき、被災地からご遺体の緊急輸送を行った実績がある。平成22年4月20日現在、全国103箇所と災害輸送協定締結をしており、万が一、大きい災害が起きた場合に対応するシステムができている。

会員事業者数は、1,426社であり、保有車両数は、5,821両である。会員では、1〜2両を保有している業者が、47%を占めており、続いて3〜5両を保有している業者が37%と続いている。保有車両の内訳は、バン型が47%、洋型と宮型がそれぞれ23%、バス型7%となっており、バン型が多い傾向がみられる。

 

霊柩自動車の誕生

 

 日本で最初に霊柩車が考案されたのは、1917年(大正6)、大阪にある「駕友」という葬儀屋を経営する鈴木勇太郎によってであった。すでにアメリカで霊柩馬車や自動車の後部に唐波風の飾りがついているものが出現しており、それが日本にうまくあうような形で取り入れられ、銭湯の玄関に似ている唐破風の屋根飾りをした輿をつけた車が遺体の搬送に用いられるようになった。

 1921年(大正10)には、一柳葬具店が霊柩自動車として使用するためアメリカ産のビム号が購入している。社史をみてみると、当時の霊柩車の利用料金は、一時間7円であった。運転手の労働時間および給料は、1日12時間から14.5時間の労働時間で、運転手が50円から150円までの間の賃金、助手が30円から70円という賃金であった。当時の一般の人々にとって、霊柩自動車を利用するには非常に高額なお金がかかったといえよう。いずれにしても、霊柩車は大阪、名古屋から、徐々に、京都、金沢へと拡大し、関東大震災後は、東京で急速に霊柩自動車が増加していき、現在に至るようになった。

 霊柩車の大半は、輸入車に宮型を載せる中古車の改造がほとんどで、最初は質素だったが、徐々に金細工がほどこされ、きらびやかになっていった。そこに、地域性が反映され、きらびやかな上に、地域の特色を帯びたさまざまな霊柩車が作られることとなった。これは、関東型、関西型、名古屋型、金沢型というような霊柩車の輿の形や漆・金箔仕上げ、白木造り、唐木造り、黒檀造り、陽明門造りといったような装飾や材質の違いなど、多くの種類の霊柩車が登場するようになり、これらは、総称して、宮型霊柩車と呼ばれるようになった。

 霊柩車の普及とともに、霊柩運送事業の管理・監督が必要となってきた。鉄道省(現国土交通省)は、昭和266月に「道路運送法」が施行され、霊柩運送事業は、同法に基づいて事業免許制となり、運賃は、認可制となった。平成212月には、「貨物自動車運送事業法」が施行され、事業免許制は変わらなかったものの、運賃は、事前届け出制(平成15年には事後届け出制)となった。

 

現在の宮型霊柩車をめぐる状況と今後の問題点

 

 国土交通省告示第619号の一部改正により、乗用車の補助制動灯の義務付けが必須となり、追突防止(乗務員・乗客の被害防止)のため、地上より0.85メートル以上の箇所に補助制動灯の設置がストップランプのほかに義務付けられた。また、乗用車の外装基準の適用という項目では、乗用車に突起物のような装飾を施すことが禁止された。この法律は、すべての乗用車に適応される。これらの基準を宮型霊柩車にあてはめてみると、トラックを改造し輿をのせた宮型霊柩車の場合は、その法律が適用されないが、乗用車を改造している霊柩車には、適応される。

ストップランプの問題は、0.85メートル以上のところに設置するとなると、ちょうど、宮型の扉の部分もしくは、それより上のところにストップランプをつけることとなる。突起物の装飾を禁止した場合は、突起物が多い宮型霊柩車は、大幅な改造を余儀なくされ、伝統的なスタイルを維持することは難しい。その上、こうした改造費用などを国や行政が補償するわけでもないため、製造業者や宮型霊柩車を所有している業者の負担は、増大なものになりかねない。

現在、タクシーと霊柩車に限って、この法律の施行は、2017年(平成29)3月まで猶予されているものの、宮型自動車を製作している事業所や宮型自動車を所有している葬儀業者・搬送業者にとって、宮型霊柩車のデザインなどに配慮する必要性のほかに、その会社の経営にかかわるような影響を及ぼしかねない事態となっている。霊柩車の交通事故は、全国的にみても少ないが、こうした規制が一義的に化せられている現状があり、その結果、宮型霊柩車の存続自体が危うくなった。

宮型霊柩車に対する感情は、人それぞれに異なるが、葬送文化の観点からしてみると、この自動車の登場は、日本の葬儀を象徴するものである。現在でも、宮型霊柩車を使用している地域は多く、せめて最後は立派な霊柩車に乗せてあげたいという人々の感情も存在している。こうしたノスタルジーの象徴としての宮型霊柩車は、単純に、時代にそぐわないとか都市部では使用しないからというような理由で、なくすわけにはいかないのではないだろうか。今後、どのような展開になるのか注目していきたい。

以 上

 

主要使用参考文献

 

一柳葬具總本店 創業百年史編集委員会「一柳葬具總本店 創業百年史」

(一柳葬具總本店,昭和5211月)

全国霊柩自動車協会のホームページ

http://www.09net.jp/kyoukaiannai/1.html