日本葬送文化学会

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11月から来年3月まで当学会は研究部会を発足し来年1年間、何を行うかを発表します。
学会としては今まで研究会の功績も入れると本を2冊出して来ました。これの後続編を考えております。
今回の発表は「葬儀・儀礼」です。今後のテーマ、研究方向を示します。

12月定例会=部会発表会

平成21年12月10日
日本葬送文化学会 12月定例会 葬儀・儀礼部会 方針発表
葬儀・儀礼部会メンバー(敬称略)

勝山宏則(部会長) 天野勲 柴田千頭男 多村至恩 三橋初枝 阿島武志 浅井秀明
岡本秀夫 西村恒吉 横田明彦 宇野昌稔 加藤久智 田中真理 樋口日里 藤岡英之
松本慈恵 溝口勝巳 山下友美

はじめに
 葬儀・儀礼の意味する範囲は広い。今回、当学会では5つの部会に分かれ、調査研究すること
になった。時間という軸から見て、狭義には臨終の場面から、葬儀告別式の終わる時点を経て、
自宅に遺骨を安置するまで、もしくは、納骨を済ませるまでというイメージであろう。
 多くの葬儀社は自社の宣伝をするときに、価格、式場、通夜・告別式での食事、ギフトなどを
強くアピールするが、葬儀社の提供するサービスはそれだけではないという主張がある。先進的
な葬儀社は、故人の尊厳を守ること、遺族のグリーフケア、事前の相談や、もっと深く精神面で
の安定を与える活動、宗教勉強会やボランティア活動など、社会貢献に力を入れはじめている。
葬儀は、高齢者や病人を抱える家庭では既に課題としてスタートしており、葬儀の後、精神的、
社会的に復帰を果たすまでの数年間または十数年間を、葬儀と定義する方が妥当である。葬儀業
界は葬儀をイベントとして完了する発想から、供養周辺業務として認識し活動範囲を広げていく
ことが必要である。

 広く葬儀と儀礼について考えていきたいところだが、今回の研究では、それをある程度時間で
区切り、この葬儀・儀礼部会では、事前相談から、四十九日までを想定して論じていく。
 価値観が多様化し、人の目を気にしないで自由な選択が与えられた現代の葬儀は、ひとつの型
にはめて、これが葬儀の儀礼です、と断定できるものではない。いくつかの、象徴的施行の実例
を示しながら、全体像を想像してもらわざるを得ない。そこで、この部会では3つのテーマを切
り口として葬儀・儀礼を捕らえることで、今の葬儀の抱える問題点や今後の方向を考えてみたい。
以下にそのテーマを列記する。

テーマ1
 まずは、『葬送文化論』刊行後の過去15年に、葬儀に対する意識を変えたと思われる重大な
事象について取り上げ、その影響について報告する。
@阪神・淡路大震災
A葬祭ディレクター技能審査
B新聞・テレビ・書籍による情報発信、映画『おくりびと』
 会葬者として葬儀に出向くだけでは、故人と遺族に対する哀悼の気持ちは持てても、葬儀施主
の気持ちや、葬儀そのものについての意見は持つことがない。葬儀当事者になる機会が減少する
なかで、上記のような事象により、人の気持ちは動かされ、新しい認識が形成されてきている。
映画『おくりびと』は「人の意識は変えることができる」ということの好例である。
テーマ2
 次に、葬儀の主催者である遺族、施主の意識の変化について、以下の3つに分解して考察する。
@葬儀・儀礼に求めるもの(施主自身の希望とやるべきこと)
A宗教・宗教者に求めるもの
B葬儀社および周辺業者など葬儀に携わる人に求めること
 この調査は意識についてのアンケートや聞き取り調査だけでは客観性に欠けるので、儀礼や道
具の変化などに投影して見ることもする。葬儀は時代の流れと共に変化してきている。過去15
年だけを振り返っても、なくなった習俗、失った儀礼は少なくない。写真、式次第、葬儀社の施
行マニュアルなどを収集比較し、喪失の理由と代替の儀礼を調査する。葬儀の規模や、祭壇、納
棺の変化、宗教性の希薄化なども項目とする。
テーマ3
 大都市圏を中心に、急速に普及してきた直葬について触れる。日本全国の大きな流れとして葬
儀の少人数化、簡略化があるが、一気に飛び越え、必要最小限のことだけしかしないという方式
が市民権を得つつある。一方、地方においては、「故人に申し訳ない」「近隣から奇異の目で見
られる」「親戚からの要望」により直葬は広まっていない。
 情報あふれる社会になっても、葬儀の分野ではまだまだ地方の特色は残されており、意識にも
大きな違いがある。葬送文化学会の会員の所在は全国に広がっており、会員が葬儀社であれば遺
族に対して、そうでなければ、取引先などのネットワークを活用して意識調査を行い、現代での
地域性を再認識するとともに、直葬および葬儀儀礼の伝播過程と経路について調べてみたい。
おわりに
 部会登録以外の会員の皆様からも多数のアンケートを返信いただき、大変ありがとうございま
した。特に宗教の専門家の皆様からのご意見は、この分野の調査における稀少な視点であり、価
値あるものとして活かしていきたいと思います。
 葬儀儀礼をきちんとやりたい。故人を哀悼し供養していきたい。この二つが一致しなくなって
きているようです。「当然わかっている」ことをきちんとしたデータで実証することが大切であ
り、そこから始めていきます。

添付資料
葬儀・儀礼部会 第3回会合 レジュメ (平成21年11月30日開催)
会員向けアンケート 集計結果
参考文献(予定) 候補一覧

葬儀・儀礼部会 第3回会合 レジュメ 
日時: 平成21年11月30日 17:30〜20:30 
会場: 薫風社 東京市谷
参加者: 勝山 三橋 藤岡 阿島 大野 西村 石川(オブザーバー)
●葬儀と宗教
・宗教者を交えて検討したい。
・宗教者に何を求めるか、葬儀社と僧侶の連携作業はあるか。
・宗教には弱者を救う思想がある。
  自死者および家族に対する救いの活動をするようになった。
  布教とホスピスでの活動。

●葬儀施主の意識とこれからの方向性
・ぼんやりとしたことを研究することになる。
  事実のデータを集め、意識調査してみたい。
  葬送文化学会会員が全国に分散しているので、地域差も見えてくる。
・社会変化により葬儀と儀礼が変わってきた。
  大家族 → 核家族 → 個人主義、現代人は孤立している。
・迷惑かけたくないから、小さい葬儀にしてくれ。という声がある。
  子孫、親戚に任せることができない、または任せたくない現状。
・エンディングノート講座を開講したが(宮城)、集客がよくなかった。
  むしろ普通の葬儀のやりかたを知りたがっている。

●簡略化が進む葬儀
・通夜・告別式の会葬者数の逆転現象。現在は通夜に8割集中している。
  葬儀のために仕事を休めない。合理性を優先。社会がそれを許容している。
・釘打の儀、百か日法要はほとんどやらなくなった。
  初七日は繰り上げられ、火葬前になり、いまや省略さえある。
・20年ほど前の葬儀社のマニュアルを入手する。現代のマニュアルと比較して、なくなった部
分と追加された部分を抽出する。

●葬儀社の役割と評価
・現在はパック価格で低価格をセールスポイントにする葬儀社が多い。しかし、葬儀だけを前面
に出した宣伝は今後うまくいかなくなるだろう。
・葬儀を獲得する手段は、通夜告別式の提供内容ではなく、供養全般にわたり対応することが評
価されてくるのではないか。供養・葬儀・墓地、すべてを取りまとめるところが、業界を制する
のではないか。

●儀礼の定義とは。どのように教育していくか。
・儀礼とは、宗教、地域の文化、全て儀礼と呼べる。
・アメリカの業界団体は子供に葬儀を教えるように国に圧力をかけている。
・小学生・中学生に向けて葬儀教室のような形で発信していきたい。

●首都圏では直葬が急増している。
・地方(宮城、栃木)では直葬はまだ後ろめたいもの。
  近隣の目も厳しく選択しにくい。
・直葬はいいことなのだろうか。
  貧困のため直葬せざるを得ない。個人尊重のいきすぎ。

●葬儀に対する意識を変えたと思われる重大な事象。
・阪神・淡路大震災 (平成7年 1995年1月17日)
 極限状態での葬儀。緊急事態での人道的行動。何もない場所での葬儀とは。
・葬祭ディレクター審査の開始(葬儀業界への啓発 1996年)
 雑誌SOGI、フューネラルビジネス誌の創刊により、
 業界に教育とマーケティングが取り入れられてきた。
 上場会社も登場し、異業種が参入し、巨大資本が導入された。
・マスメディアによる情報提供(葬儀サービス利用者への発信)
 テレビ、新聞、書籍出版による葬儀情報が氾濫。
 購読者の関心も高く、数多くの企画がなされた。
・映画「おくりびと」(業界が発信元となり、消費者に問いかけができた例 2008年)
 葬儀と葬儀業界に対する好感が得られた。
 人為的に意識が変えられた好例。業界、周辺業界団体とともに教育広報活動をするべき。
アンケート集計結果
回答にご協力いただいた会員様です。ありがとうございました。
研究者
 柴田様 長江様 多村様
仏教関係者
 松本様 野々部様
葬儀業界
 浅井様 宇野様 加藤様 西村様
出版報道関係
 碑文谷様 小林様 藤岡様

問1 葬儀・儀礼に影響を与えた事柄
1989 ベルリンの壁崩壊
1995 オウム事件
1995 阪神・淡路大震災(PTSD、心の傷、トラウマ)
2001 アメリカ合衆国同時テロ
2008 リーマンショック経済崩壊(それに繋がる戦争と社会不安)
2008 映画おくりびと
SOGI誌 フューネラルビジネス誌
葬祭ディレクター技能審査 1996第一回審査試験実施
家族葬の普及 直葬
葬儀社紹介機関の出現

問2 宗教者の役割と期待されること
・その人の一生が無意味でなかったとことがしみじみ伝わるような説教が大切。
・死から生が判る機会とする。
・人は、なぜ生きなければならないか。
・なぜ死ぬのかについて、きちんと語れること。
・安心感と安定感を与えること。
・日本宗教や日本伝統文化の継承とその普及。
・生きることの意義をきちんと伝える
・心の癒し、定期的な協議についての勉強会など。
・生前および葬儀後の精神的ケア。
・経典などを平易に現状に合わせて教示すること。
・身近に宗教および日常的なことまで相談できる敷居の低い宗教者を望む。
・お布施の額などで菩提寺の悪口を聞くとつらい。檀家でよかった。このお坊さんに出会えて救
われたという宗教者でありたい。
・先祖供養ができるということは生活に余裕があるといえる。
・供養、葬儀にさえ困窮している人の救済を宗教者は考えてほしい。
・愛する人を失った人が、故人に何かしてあげたいという気持ちを供養に関連づけていく。

問3 葬儀社の役割と期待されること
・いずれにしても葬儀は儀式になるが、それが非個性化しないこと。故人の人柄や生涯が表出さ
れるような対応を工夫する。
・反面、葬儀が一族再会、共同体の温かさの再発見につながるよう、工夫することも現代の個人
化社会ではとても重要だと思う。
・悲嘆の処理、精神的ケアが大切。
・葬儀の意味について教えてくれること。
・宗教儀礼と社会儀礼を明確に分離すること。
・遺体処理業者となってしまっている。本来は、隣組や村組の代役であったはず。
・遺族へのホスピタリティ、葬儀だけでなく、仏事儀式全般におけるサポート。
・病院でのケアにより、死に対する感情処理がある程度できているので、現代の葬儀はシラケて
いる。
・商業主義をやめる。
・知識や死生観の提供者となってきているので、その分野でのしっかりとした考え方を持つ。
・非日常の出来事から、日常の生活への回復のお手伝い。
・遺族への心のケアのためのプログラムを持つ。
・故人と遺族、お寺と檀家、家庭と地域の関係を取り持つ役目はますます大きくなると期待され
ます。仏事や葬儀に対する人々の無知を利用するのではなく、手を差し伸べるような心構えが必
要とされるでしょう。
・供養に関する数多くの情報を発信しつづける。
・尊厳を守る事を理解した優秀なスタッフ教育をして、より高度なサービスができる組織づくり
をしていく。
・死の周辺のトータルサポート。とりあえず相談に行けば適切な解決への近道を示してくれるよ
うなところ。

問4 葬儀はこれからどうなるのか直葬は増えるのか
・ますます個性化するのではないか。自分葬儀はこうしてほしいという意思表示が一般化する。
好きな歌や詩、賛美歌や聖句、お経をあらかじめ決めている人もいる。
・多様な死に方があるように、その死に方に対応して葬儀も多様化するのではないか。直葬は増
えても、それだけで終わるとは思えない。まったく儀のない、葬があるだろうか。
・戦後、宗教についてきちんと教えられて来なかった団塊の世代は、仏教的葬儀の必要性、供養
について、まったく知識のない人が多い。ゆえに直葬が増える。
・宗教儀礼を行わない事で生じる「心のすさみ」などを伝えていかなければ、直葬は増えていく
だろう。
・信仰の本当の意味を知らない僧と業者が多すぎる。人間の尊厳をとらえていない。
・直葬はこれから増えると思いますが、一定の時期までで、以降は生前相談等が増え、個々の希
望を取り入れた葬儀になっていく。
・通夜は不要。一日葬の中で直葬に、簡単な宗教的信仰が感じられるものを付加する。
・簡易的な葬儀は増加する。
・直葬を望む人は増えると思うが、儀式を重んじる葬儀を求める人も増えるので、二極化の方向
に行くのではないか。
・死亡者人口は増えていくのに、葬儀(直葬以外)の件数は減っていくのではないか。直葬や公
費での葬儀が増え、死者に対してお金を使うことを、もったいないと感じる風潮が心配される。
・現在のアドバイザー的存在から、お客様と同じ目線で接するプロ集団へと変貌してくる。
・長い目で見れば、簡素化と豪奢化を繰り返すのではないか。当面は直葬が増える。

問5 葬儀において最も大切にすること
・遺族は極度に疲れているのが普通。それを配慮し、全体を取りまとめてくれるような人を選ん
でスムーズに式が進行できるようにする。
・キリスト教でも故人を極度に賛美してしまうことがあるので、大切なことは故人が神の御許に
召されたことの喜び。平安が式全体に表出されるようにつとめます。説教も大切ですが、葬儀を
キリスト教の宣伝と考えることは全く間違っています。人間の生と死という普遍的事実を会葬者
にもわかるように語ってほしいと思います。
・大切な人をいかに(次の世に)送るか。お別れをするかが、キーである。20年前には崩壊し
はじめている家族の絆を再認識すること。
・儀式という区切りを経験することで死者とのお別れを実感し、故人なき新たな人生を前向きに
受容させること。 
・魂の浄化と同時に残された遺族に対しての癒し。
・亡き人を送る人としての素直な気持ちをどう形にしていくか、人の死、人の尊厳について考え
ていかなければいけないと思う。
・喪主を体験すること。コミュニティ、家族を大切にする。葬儀の教育。
・葬儀の簡略化が遺族への大きなサポートになりがちではあるが、人生の節目にあたり、それが
最優先ではないことを提唱しなければならない。
・人の尊厳、ご遺体は物ではないので、命を見送るために命の重みを感じる。
・送り方送られ方のバリエーションがますます多くなっていくと思いますが、少なくとも数年後
に「あれで良かったのか?」と思わせるような送り方は避けるべきです。
・葬儀の目的と意味が大切です。何が大切かは人によって価値判断が異なるが、人は誰でも必ず
死ぬという点では一致する。何が大切かは一概には言えない。

問6 この部会で取り上げてもらいたいもの
 
・葬儀の多様化への対応をどのようにするのか。
・21世紀における葬儀、儀礼の必要性と意義について考えていく。
・宗教、宗派、時代、地域、各国の葬送儀礼に関して掘り下げをする。
・歴史的には確定しないことなので、現代葬儀の印象を整理して記録する。
・あまり大雑把にならず、葬儀社の商品やサービスがどう変わったのか、受け入れらた商品やサー
ビスは何か。逆に、消えたものはどのような物で何故かを考えていく。
(宗教は葬儀と法要がメインテーマではないことをはっきりさせる)
(火葬場の職員さんの礼節について。もっと丁寧に)

参考文献(予定)
葬送文化研究会 「葬送文化論」 古今書院1993年3月
青木新門 「納棺夫日記」 文春文庫 1996年7月
日本カトリック司教団 「いのちへのまなざし」 カトリック中央協議会 2001年2月
厚生労働省 人口動態統計 将来予測
東京都生活文化局
「私たちのデザイン −葬送−」 1997年3月
碑文谷創 「葬儀概論」 表現文化社 1996年4月
財団法人日本消費者協会
「かんがえておきたい 自分の葬儀のかたち」  2007年4月
「葬儀!!いくらかかる??いくらかける??」 2009年2月
公益社葬祭研究所 葬儀に関する論文
安宅秀中 「式場論」 2002年
安宅秀中 「非合理的葬儀論」 2003年
安宅秀中 「葬儀社を選ぶ人が読む論文」 2004年
安宅秀中 「web葬議論」 2005年
社史団体史
全日本葬祭業協同組合 全葬連50年史
東京都葬祭業協同組合 東葬協50年のあゆみ 2003年10月
全日本冠婚葬祭互助会 冠婚葬祭互助会五十年の歩み 1998年7月
全国霊柩自動車協会法人化二十周年記念誌 1996年3月
東礼自動車株式会社60周年記念誌 2004年9月
公益社創業70周年記念誌(大阪) 2002年12月
誠行社九十年史 2002年4月
映画 「おくりびと」 主)本木雅弘 監)滝田洋二郎 2008年
「平成17年 曹洞宗宗勢総合調査報告書」2008年3月
「寺院・利用者双方に貢献する寺院会館の可能性」フューネラルビジネス08年12月号特集
以下は柴田先生からの推薦図書
Eトゥルナイゼン「御手に頼りて 葬儀説教」 日本基督教団出版局 1984年11月
石居正己 「ルターと死の問題 死への備えと新しいいのち」 リトン 2009年7月
波平恵美子 「日本人の死のかたち」 朝日新聞社 2004年7月
小池寿子 「死を見つめる美術史」 ポーラ文化研究所 1999年10月
加藤周一 「日本文化における時間と空間」 岩波書店 2007年3月
大原健士郎 「生と死の心模様」 岩波書店 2001年3月

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