平成16年度 日本葬送文化学会「定 例 総 会」(通算第3回)報告


                                             日  時: 平成16年4月30日

                               場  所: 東京文化会館 大会議室 

                               出席者数: 27名 委任状35通

報告 定例総会議事(会則による総会開催規定に該当)以下報告

議長選出・・稲村吉彦氏

4月3日開催の常任理事会報告を事務局から発表・・新会長内示の件

 第1議案 平成15年度活動報告に関する事項・・・・・・・・・・・・・・・・承認

 第2議案   同    収支決算に関する事項・・・監査承認報告の後・・・・・承認

 第3議案 平成16年度活動予定に関する事項・・・前半期活動予定別紙説明・・承認

 第4議案   同    収支予算に関する事項・・・会計説明・・・・・・・・・承認

 第5議案 役員改選等に関する事項・・・・・・・・以下      

      会長 天野 勲氏任期満了に伴う新会長の浅香勝輔氏の就任・・・・・・承認      

      常任理事留任  荒木由光 氏(泣Aラキ)監査                

              三橋初枝 氏(褐O風社)          

              野崎二三子氏(叶ス行社)監査   

              原 敏之 氏(樺原屋)   

              阿島武志 氏(栃木県 笈齠三)・・・・・WEB委員  

              勝山宏則 氏(東京都 椛蜷ャ祭典)・・・・WEB委員、会報編集委員

               杉浦昌則 氏(千葉県 潟Zレマ)・・・・・会報編集委員 

               大杉実生 氏(東京都 樺央セレモニー)・会計委員   

              二村祐輔 氏(東京都 泣Zピア)・・・・・事務局長 

               菅原裕典 氏(宮城県 鰍キがわら葬儀社)・東日本担当

               下村 侃 氏(岡山県 鰍「のうえ)・・・・西日本担当  

          顧問  八木澤壮一氏(東京都 共立女子大学)・・・顧問、永久会員 

              山床節子 氏(兵庫県 ジャーナリスト)・・顧問 

           理事   柴田千頭男 先生(ルーテル学院大学名誉教授)              

              田中久文  先生(日本大学 教授) 

              谷 荘吉  先生(病院院長) 

              山田慎也  先生(国立歴史民俗博物館)  

              上村敏文  先生(ルーテル学院大学) 

      常任理事退任  中島 章氏(監査)   

            理事新任  和田恵助 氏 (神奈川県 釜a田)  

              杉山昌司 氏 (埼玉県 鑚設計)

              岩崎孝一 氏 (東京都 褐瘢ネ設計)・・・会計担当 

        顧問新任  天野 勲 氏 (東京都 前会長)・・・・・以上承認     終了

        新会員紹介 テクノファースト 新井さん 神奈川県     霊柩車メーカー   

              ツールボックス  岩崎さん 世田谷区     編集関係

              メモリアルグループ     東京都      葬祭関係

              柳崎会館     宇野さん 埼玉県川口市   葬祭業  

              デベロ      桜井さん 茨城県水戸市   葬祭関連器具メーカー 

              大野屋      大野さん 神奈川県横須賀市 葬祭業

              帝都典礼     横田さん 愛知県名古屋市  葬祭業

              溝口葬祭     溝口さん 八王子市     葬祭業(準会員から繰り上げ)

              スペースアデユー 増田さん 台東区      葬祭業(準会員から繰り上げ)

        退会会員  大栄繊維 中村さん、竃k川 北川さん     

準会員においては発表なし・本年度より準会員の名簿記載をしないことになりました。*

新会長の所信表明談話 主旨

 「『学会』として、より踏み込んだ活動を行いたい。2年間の任期中には、地域から見た

   葬送文化のあり方と霊柩車の全国的な調査をしていきたい。

   いろいろな企業との関連、ご協力を頂きながらこれまでの良い雰囲気を継続する中で、

   会員各位のご支援をよろしくお願いいたします。                 」


平成16年 日本葬送文化学会「定 例 会 報 告」 
                               DATE:平成16年4月30日
テーマ「 地域における葬送儀礼とその変容 」 ― 和歌山県古座町の事例を通して ―
講師・・・山田慎也氏
 講演者略歴
 1997年3月年慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了、社会学博士(慶應義塾大学)、
 1997年4月文部省中核的機関研究員(国立民族学博物館講師)を経て
 1998年国立歴史民俗博物館民俗研究部助手となり今に至る。
 専攻は民俗学、文化人類学。当学会理事。
 主な業績
 「葬儀と祭壇」松崎憲三編『人生の装飾法』筑摩書房、1999
 「行く末よりも来し方を―生花祭壇における死者の表現―」
 『歴史と建築のあいだ』浅香勝輔教授退任記念刊行委員会編、古今書院、2001
 『もうひとつの世界―妖怪・あの世・占い―』内田順子・大久保純一・島村恭則・常光徹・
                                    山田慎也共著、岩崎美術社、2001 
 昨年オックスフォード大学への留学からお帰りになりました山田慎也氏をお迎えして
 年間テーマを踏まえたお話しを、調査時の写真を見ながら承りました。
 配布の資料から講演概要の報告をします。


1:はじめに
  葬儀のあり方は、その歴史的、地域的条件の下で大きく変容しました。
  それは所与の条件に制約されながらもさまざまな情報を得て、ひとびとは死への対処方法を
  形成してきたのである。ここではある地域の事例を通してその一端を報告する。
2:伝統的な土葬の葬儀
  事例:和歌山県東牟婁郡古座町古座地区・・江戸時代・・古座浦、古座村
  生業:リョウシドコ(漁業とその関連の仕事)
  環境:海岸に面した町で、住民は曹洞宗青原寺・浄土宗阿弥陀寺・浄土真宗善照寺のいずれかの
     檀家街道を挟んで向かいあった家並。捕鯨の町でもあった。 
昭和40年頃を基準にした土葬の葬儀の進行例
@ 臨終 末期の水・枕飾り・悔やみの習俗あり。訃報は「うわさ」が先行して知れ渡る。   
  逝去時には、葬儀の取り決めとして日時・規模(独僧・片鉢・両鉢)   
  正式な訃報は「ツカイ」が行なうが、「ツカイ」を差し向けることに大きな意味があり、
  事実上『現状』の交際範囲の再確認であるとともに招待依頼の要素が強い。
  また六曜で云う「友引」には一切何もしない。通夜と葬儀の間に友引を挟むこともある。
A 花ゴシラエ 葬具作り・蓮華などは購入・女性はゴハンゴシラエ。ハナフキ・・葬儀の造花作り。
B 通夜 僧侶は枕経に来ていることから通夜には来ない。
  近隣住民が中心となって念仏講のご詠歌などを2時間ほど行なうのみ。
  故人と一緒にすごすこと(こもり)に意味や意義をおいている。
C ツボホリ 土葬の穴掘り・約1.8mほど掘る。実作業よりも大勢の人が『自主的』に集まり、
  ここに参集することで、葬家とのつながりを示す意味もある。
 『墓を賑やかす』などの言い回しがある。また魔よけなど製作や葬場の準備なども行なう。
D 葬式 出棺の儀式(自宅) 剃髪の儀礼 ヨビダシ(葬列順序の発表)
  葬場の儀礼と続く。葬儀の場をショウコウバ(焼香場)と呼ぶ。おもに境内墓地のある菩提寺や
   一本松ノ浜にて引導作法が行なわれる。
E 埋葬 近親者が引導場所より山伝いに運び、決して後戻りや街中に入ることはない。
  山には墓場までの道がない場合もあり困難を極めるときもある。
  それらのお手伝いの人をテッタイドと呼ぶ。
F アゲ 葬儀の終了を意味する。アゲのお経「開蓮忌」アゲの膳として精進料理など。
G 初七日 それまでは毎日墓参り・服喪者と食事をともにする共食。七日後・七日アゲと称して、
  清めの潮汲みを決まった場所で行い、その海水を関係者に配る。その水でかまど等を清める。
  また初七日の別称として墓タタミ、八日の食い別れなどとも云う。
H 忌明け 四十九日・四十九餅の習俗もある。

3:葬儀形態の変化
@ 土葬から火葬へ
  昭和43年町立の火葬場設立。当初の火葬は「異常死(伝染病等)」をおもに想定されたようで、
  火葬することが一般的になるのにかなり抵抗があった。
  通夜後夜間に火葬して翌日葬儀というケースもある。カゲカクシの伝統?
  火葬により、焼骨埋葬なのでツボホリの省力化や輿の不使用がみられた。
  その埋め合わせなどで祭壇が登場する。
A 自宅告別式
  葬場としての寺院や一本松ノ浜から町の辻での露地式へ。
  それが集会所へ移り自宅で行なわれるようになる。
 (ウチジョウコウ)これらの影響から葬列順序が逆転して位牌が先頭した。
  また葬列そのものも消滅し故人や葬家との社会関係の表明が無くなった。
B 通夜の門参り
  一緒に一夜を過ごす「お籠もり」が消滅して、単なる「別れ」というような意識が浸透。
C 葬儀後の儀礼の繰上げ   
  葬儀当日のアゲや翌日の清めの潮汲み、墓タタミ、食い別れの儀礼などが埋葬(墓タタミをかねて)
  当日のアゲに清めの潮汲みを行なう。また忌明けの繰り上げも三月越しを禁忌とすることから、
  今は喪主の都合で百ケ日までとなる。

4:葬儀の主体の変化   
  葬儀を支える主体  A家の場合  老父・老母の葬儀例から・
@ テッタイド 仕事の減少から葬儀社への委託。ただし関係表明のために依然として参加していた。
A 香典 老父188件中145件が地区内(2〜3.000円が大半)・17件他地区・他17件他県
 (いずれも親戚で金額は1万円以上)
  老母の場合、香典を『辞退』。これは「香典は借金みたいなもの」と云う感覚があり、
  老父逝去の際には生存している老母からの「返済」が期待できるが、その老母も逝去して、
  次世代がその地域とのかかわりがない場合はこれが不可となることから、
  ここで断ちきるという思いがある。ただし兄弟・親戚からは受け取る。
  香典の授受には長期的な互酬性(ごしゅうせい)があるのでこれを解消したことになる。
B 供え物  老父・・生花・樒・灯篭・果物籠
       老母・・辞退、振り分けで、新たな提供者の選択がなされた。主に果物籠のみ。
C アゲの膳 老父・・交際の深い家としての招待があった。
       老母・・限定的であり、御礼としての意味合いが強い。

  つまり、地域にある葬儀を支える集団の解消が老母の葬儀においてなされ、それは
  葬家とごく近親者のみを中心に施行されてた。

5:葬儀社の成立 1961年「葬儀の弓長(ゆみなが)」設立。花輪蓮華を営業。
  当初は自社の親戚の家のお手伝いを葬儀社として行なったことから、次第にその業務拡大
  がなされて、他家の葬儀も扱うようになった。
  主な業務としては、物品・サービスの提供であるが、地域からの手伝い(テッタイド)が
  減少することで、葬儀の知識的な提供がなされるも、それは企業的立場を中心としたもので、
  割愛や省略があることから、従来の伝承を継続することが出来なくたってしまった。
  2001年に斎場建設。2002年からは同業他社(農協)との営業競争に突入した。

6:葬儀の担い手の専門化 葬祭業の専門化と葬儀施行が契約による「商取引」となった。    
  臨終は病院 葬儀は葬儀社 火葬場は職員(公務員)と云う環境。  
  これまでの葬儀は、テッタイドにより地域の相互互助関係が確立されていたことで、
  その慣習的な拘束性もあるが施行・進行の確実性も高いものであった。  
  葬儀を企業に依頼することで、相互的な互助関係は形骸化して、対企業との契約関係が派生、
  内容についての地域的な拘束性はなくなり、自由度はましたが、その「自己・自家責任」の所在も
  受け止めねばならなくなった。つまり、私たちが葬儀においても消費経済に依存することで、
  死後の対処の地域的・伝統的な確実性を見失ってしまった。
  これは葬儀における個人的な自由を獲得した代償ではないだろうか。
 
会場内様子