日本葬送文化学会 5月定例会(講演)
平成15年5月20日 東京文化会館4階大会議室

テーマ
「死者とイエ」
佐渡島北部の葬儀における食・住・衣・人
講師 山田慎也(やまだ しんや)氏
講師略歴
1997年3月慶応義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了 社会学博士(慶応義塾大学)
1997年4月文部省中核的機関研究員(国立民俗学博物館講師)を経て
1998年国立歴史民俗博物館民俗研究部助手となり今に至る。専攻は民俗学、文化人類学
 
1.はじめに

葬儀とはなんだろう。物理的な消滅といった単純なものではなく、
様々のレベルの死が同時に進行している。

誰かが死んで存在がなくなっても、そのあと葬儀、お盆をやるということは、
仏教的には仏になったというが、魂はなくなっても、死後にもいるような感じがする。

また、死んだ人が所有していた財産は誰かが引き継ぐということも死に関連した現象である。

つまり@物理的な死A先祖として扱われるB財産に引継ぎ手としての存在、これが、故人の存在である。

これは、現在増えつつある無宗教式葬儀でも共通する。死者へ語りかけていたり、供え物をするということは、
「死んでも存在しているという感じ」というのが前提である。「死とは消滅である」と言い切れないのが私達なのでしょう。

また、葬式の場所には社会的な意味があります。喪主が後継者であり、
財産を受け取るという意味を示すということは広く知られています。(ロバート・エルツの研究にある)


2.地域の概要

新潟県佐渡島(さどとう)北部は、南部の両津港から、3時間もかかる。
また、山が海まで迫っており、海際にしか住めない土地。
1962年にやっと車の通る道ができた。

狭い土地なので人数制限をしなければ生活ができなくなるため、江戸時代より、43戸と戸数制限がされていた。
つまり、分家は、認めないということである。

オオマイ、コマイ、サンニンイチニンと呼ばれる階級制度があり、仕事や取り分が決められていた。
しかし、三代さかのぼれば皆親類といわれる土地であり、婚姻などを通じて、身分が変わる機会があり、階級は恒久的なものではない。


3.葬儀の過程

葬儀はオモシンルイ、シンルイが中心になって執行。
オモシンルイ 人のやり取りがある家、仲介した人の五十年忌まで、嫁を出す側もらう側の関係

その、嫁が死ぬと縁が切れようがなくなるのでシンルイになる。
エンルイは離婚などによって切れる可能性がある。
生きてエンルイ、死んでシンルイ。

この概念は昭和30年代まで続いていた。

ここの住民は、家の当主の名+地位で呼ばれ、個人名は記憶されない。
○○の婆ちゃんは、二代まえも三代まえも○○の婆ちゃんであり、名は意識されない。

直系に乗れない人、つまり、結婚しないで死んだ人は、尊敬されない。
「縁づかない」と呼ばれ代々の墓の隣に建立された、無縁の墓に入る。死んでもなお差別されつづける。


        A家          B家

         |           |
         |         ――――――
         |   嫁入り   |    |
         △  <====  ○    △
         |
        ―――――――
        |  |  |
        ○  △  △

結婚しない女(離婚・出もどりを含む)はアバ(あばずれの意)、結婚しない男はオッサンと呼ばれ、傍系である。

ツギョウト 葬儀の連絡先をリストアップしていく、今後付き合いをしていく家を決めていく。
      単なる連絡係ではなく、社会的な意味がある。

ユーガン(湯灌) 現在は清拭のみ。この儀式に招待されるか、されないかも社会的地位の決定の場面である。

米があまり採れない土地ゆえに米の重要性が非常に高い。
150キロにも及ぶ米で団子つくるケースもある。

畳をすべて同方向に敷き変え(流し敷き)、戸を全てはずす。

イロチョウ(香典張)の作成。

昭和40年代に町営の火葬場ができた。それまでは、地域地域で野焼きをしていた。
その頃は、薪の手配も仕事のひとつであった。

流し念仏。念仏を皆で合唱する。全員参加で共同体験をする。全員に送ってもらったという体験が重要であり、
自分も皆に送ってもらいたいと感じるようになる。

施夜(ショヤ) 一般の参列者が来る。


4.葬儀の形式と法事

葬儀が法要として認識されている。
このあたりは真言宗が多い。

ニカホウヨウ、シかホウヨウ
道具を2つ使う4つ使うの違い

ニカホ+セガキ
シカホ+セガキ

葬儀も、年期法要もまったく同じ祭壇、形式にのっとり執り行われる。
家に死者を迎え入れ、また送り出すという儀式。


5.葬儀における食

米の重視 喪家の米でないといけない

団子はヒトガタである
枕団子、飾り団子(串団子、盛り団子、前掛け餅、7つの餅、十三仏団子)、イノセキ団子、墓団子

葬儀の食事はメシヤド(飯宿)でおこなう
赤飯、あん餅、イゴネリ、煮しめ、
食べないと、「ホトケをカケにする」を言って食べることを促される。
(仏様が怪我をするの意)
供養とは、まさしく死者へ供え、養うこと。

花より団子というのは、仏は団子が好きだという意味とこの地域では認識されている。
ひたすら食べ物を供える。

3人の故人を祀る50年忌では、祭壇の前に4つのお膳が並ぶ。故人への3膳とご先祖への1膳である。

ご先祖ではなく、地蔵さまに差し上げるという説もある。地蔵に出さないと仏が食べ物を受け取れなくなるらしい。


6.葬儀における衣

シロの忌み言葉をイロという(柳田)
経帷子、幕、喪主夫婦のイロ帽子、
基本的には素材は麻、第二次世界大戦後まで。
後に、さらしに代わる

イロキ 参列者が着る イロ(喪服) 通常はイロ帽子


7.葬儀における住

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|  床の間     |            |  |
|−−−−−−−−−−|            |  |
|          |            |  |
|          |            |  |
|  座敷      |   納戸       |  |
|          |            |  |
|          |            |土 |
|          |            |  |
|          |            |  |
|          |            |  |
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|          |            |  |
|          |            |  |
|          |            |  |
|          |            |間 |
|          |            |  |
|  次の間     |   デイ       |  |
|          |            |  |
|          |            |  |
|          |            |  |
|          |            |  |
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典型的な家の間取り、当主夫婦は、納戸に寝起きする。納戸には財産や種籾をしまう大切な部屋である。
葬儀は座敷で行なう。納戸で産まれ、次の間で育ち、座敷で葬儀をし、最後は納戸の仏壇に収まる。

葬儀とは通過儀礼である。(ファーフィリップが100年以上前に提唱)
ある地位から、別の地位へ移ることであり、そこでは、
分離・過渡・統合が行なわれている。

分離過程 臨終から湯灌
寝室(納戸と次の間) 入れるのはオモシンルイのみ。他の人は外側で礼拝

過渡過程 通夜から七日ジマイまで
座敷、床の間に祭壇、家が全て式場、生活空間が非日常の儀礼空間へ

統合過程 初七日の朝、納骨、位牌は仏壇へ
家を元に戻す

死者の分離・過渡・統合は、寝室・座敷・墓と空間的移動に対応。


8.葬儀における人

香典 3千〜5千円
中院(ちゅういん) 20万〜30万円 シンルイとしての葬儀の負担金として重要
仏供米(ぶくまい) 3升以上

ジノバという家族会議のような場面で様々なことが決定されていく。

御布施は僧一人につき8万円、主導師は倍(16万円)


9.葬儀を支える家

死者の処理には大量の米が必要


10.死の準備としての人生

物理的な処理
   湯灌(寝室)> 葬儀(座敷)> 火葬(ランバ)> 七日ジマイ(座敷)>墓

文化的な処理
   枕経(寝室)> 戒名・引導(葬儀)> 位牌


社会的な処理
   後継者の確定、シンルイ関係の確定
   (ツギョウトの範囲、ジノバの席順、指名焼香の順序、香典やホドコシモノの量)   社会階層の顕示と意識の再構成
   (法要の種類や輿の形態、施夜の餅の大きさなど)


11.外在化する葬儀

農協の葬儀部門、火葬場の利用
儀礼の短縮、省力化
施夜(ショヤ)料などの貨幣化

内在的に準備されていた、死の処理法を外部に依存することにより、簡略化されていく。
しかし、従来の拘束からの解放を望んだからこそ、現在の葬儀がある。昔は良かったではなく、
これからのシステムを見つけ出す必要がある。



Q&A

食事の席の呼び名は何ですか?

七日ジマイ、シマイの膳
仕上げ

葬式:メシヤド(昼食)(はんだい)大皿スタイル
別の家でやる。別家の発想はあるようだ。
しかし、皆親戚関係なので「イミ」の概念がはっきりしていない。


農協の介入はどのようなものですか?

農協は、昭和50年代より、介入するようになったが、装具レンタルと、香典返しの農協商品券の納品にとどまっている。
天野会長挨拶
 
 
山田慎也氏講演
 
参加者風景