日本葬送文化学会11月定例会報告                                             平成14年11月29日
テーマ 『江戸時代はじめの儒者の葬式をめぐって』

              講師:東北大学 講師

                    高橋章則先生

 講師経歴・・(送付文書より一部抜粋)

   1957年生まれ。

   1981年 東北大学文学部史学科日本思想史学専攻卒業。

   1983年  同 大学院文学研究科博士課程前期(国文学国語学日本思想史学専攻)修了。

   1986年  同 後期修了。

   1986年 東北薬科大学非常勤講師・・現代に至る。

   1990年 東北大学文学部講師/2000年 同 大学院講師・・・・現代に至る。

            その他・・インドネシア大学大学院客員教授歴任(1997年、2000年)

 

研 研究活動・・(送付文書よりごく一部のみ抜粋・紹介)

主要業績・・「上古封建」論と国学---近世史学思想史の一断面---

         本居宣長の「国造」制論とその思想的意味—宣長学考察の一視点—

                        (ともに日本思想史研究第16号 1984年)  

            近世初期の儒教と「礼」--杯家塾における釈菜礼の成立を中心として—

                        (『日本思想史における国家と宗教』思文閣出版 1992年)

 研究テーマ・・日本の思想・文化の歴史的展開を歴史学的な観点から探求する。その際に、主として思想家の残した文献資料を扱い、彼らの思想的な営みを時代層・社会層との関連のなかで位置づけるという方法をとる。その上で、彼らの思想の同時代的な意義と今日的な意義、さらに普遍的価値等を考察することを目的としている。)

 講演内容

 仏教葬儀以前より儒教的な葬送の影響を我が国は受けてきた。

 『土葬』の儒教的意味は、親の身体を傷つけない『孝』の意識より、亡骸を破壊する火葬      は絶無。

 同時に、火葬により霊魂のよりどころを消滅させてしまう恐れがある。

 葬儀を取り仕切るのは『儒者の使命』でこれを『礼楽(れいがく)』として確立させたが、日本での浸透は、あまり定着しなかった。

 『礼楽』とは、冠婚葬祭全般における礼儀。舞楽などもこれを含め、とくに葬礼をどう仕切るか、取り扱うかが儒者のアイディンティティとなる。

 江戸時代における日本の儒者の中でも、葬送に大きく影響を与えたのが、野中兼山で、幕府に対して火葬反対を唱え、一時はキリシタンと混同されたがその後、各方面の国学者に影響を与えた。

 特に江戸時代においては鎖国、つまり『海禁』ではあるが、江戸時代中12回の訪日を数えた、『朝鮮通信使』などの来日により、いっそう儒教的な基盤が、その都度再燃してきた。

 朝鮮通信使の多くは、儒者であり、『華夷(かい)観念』のもと、我が国の葬礼を未開なものと見下していたようで、これを是正することを日本の学者に教示した。

     華夷観念・・・中国が明から清へ移り変わる際、古来からの中華思想(世界の中心は中国にあると云う基層的思想)が、蛮夷である施政者の政変を伴っても受け継がれ、これを華夷変態の変化とする経緯から、そのまま朝鮮半島に浸透し、朝鮮においても、中国の『柵封』にもかかわらず、自ら『小中華』と称し、日本に対して基層的な優越性を自負していた。このため儒者の集団である朝鮮通信使においては、葬礼においても儒教的に改めるよう、働きかけていくのが儒者としての使命のように感じていたらしい。

 けれども、仏教も然りであるが、日本の習俗性、特に日常の信仰に際しては、民俗の基層的な観念であり、儒教に際しても、そこから宗教性を除いてこれを『儒学』として取り入れていくことになる。

 朝鮮通信使が、我が国の葬礼に対して、一番未開さを感じたのが、『挙哀(こあい)の欠落』で、これは、死者に対して泣くこと(哭・慟哭など)が少ないのを指摘していた。

 このような経緯の中から、林 羅山の二代目といわれている林 鵞峰(がほう)などは、仏教徒である母のなど、自家の葬儀を無理やり儒教的に行い、これを浸透させようと試みている。

 このときの経緯やそれまでのまとめが『泣血余滴(るいけつよてき)』『後喪日録(こうそうひろく)』等の著作となり後の葬礼に際しても影響を与えていくことになる。

 これらの著作では基本的に儒教的な礼式の普遍性が確信され、『文公家礼(ぶんこうかれい/朱子)』に則った礼式の構想と実践が記述されている。

 これらの解説を、高橋先生の論文「近世初期の儒教と『礼』 ― 林家塾における釈菜礼(せきさいれい)の成立を中心として ―」(『国家と宗教』)を元にお話しされました。 

講演会場の様子