日本葬送文化学会は葬送に関わるすべての事象の研究を目的に設立されました。

日本葬送文化学会

ニュースリリース

2021年1月定例会の報告 講演「コロナ禍と葬儀への影響」碑文谷創

2021.01.26

2021年1月定例会の報告

2021年1月22日(金)18時30分~20時 Zoom開催

参加者 36名

福田充会長より挨拶

コロナ禍で昨年の総会をZoomで開催して以来、エンディング産業展をのぞいて直接皆様とお会いできないままで残念です。この先もまだ不透明な状況ですが、形を変えつつもコンスタントに定例会も運営してまいりますので、宜しくお願い致します。

2月に刊行の予定の『葬送文化22』に碑文谷創さんがコロナの世界的な動きを系統立てて時系列にまとめ、葬儀との関連について投稿されています。これからどうなっていくのか? 「コロナと葬儀」の位置づけを皆様と一緒に考えてみたいと思い、今回の講演会を企画いたしました。

 

 

※ 会員ページから講演会の動画をご覧になれます。

以下に、当日の講演をまとめました。

 

講演会「コロナ禍と葬儀への影響」         講師:碑文谷 創 氏

 

日本社会の変化

まずは日本社会の変化を見てみると、超高齢化、格差社会。都市化、家族の変化(単身化・非婚化・家族分散)などがあげられる。

超高齢化を数字で見ると、およそ半数の人が生きる年数である「寿命中位数」が男性は84.36年、女性は90.24年となる。80歳以上で亡くなる人が64.2%で、超高齢者の死が6割を占める時代を迎えた。その上格差社会が進み、日本はまさに貧困層の拡大期に向かっている。格差は葬儀費用にも反映し、葬儀社に支払われる費用の平均は121万円だが、100万以下が49%を占めている。葬儀費用は平均が意味がない時代となった。

感染症と感染対策の歴史

過去に世界で流行した主な感染症にはペスト、天然痘、コレラ、スペインかぜなどがある。天然痘は、日本では8世紀に大流行し百万人死亡ともいわれ、奈良の大仏建立のきっかけになった。コレラも江戸時代に大流行した後、明治期にも国内で80万人が死亡して、明治30年に伝染病予防法が制定され、火葬推進と下水道整備に繋がった。約100年前に全世界で流行したスペインかぜでも、全世界で2千万人以上(1億人?)が死亡、国内で約40万人が死亡している。

日本では「疫病」と称された感染症が「死はうつる」と死を忌避する根深い感情の源となってきた。抗生物質やワクチンの登場で感染症対策ができるようになって、まだ80年にすぎない。強制的な隔離が差別や偏見を生むことを我々はハンセン病の歴史に学んできたはずである。

コロナ禍の日本

コロナの一年で二つの物語が進んでいると山本太郎氏(長崎大教授)は述べている。集団免疫獲得という大きな物語と、もう一つは個別の物語。社会全体からみれば10万人に1人の死でも家族には大切な一人なのだ。

1月22日付の発表で、国内陽性者数は全世界で約1億人、国内では352,689人、死亡者数は全世界で約200万人、国内では4.886人。

感染者の実数は陽性確認者の4倍ともいわれているので、国内でも既に100万人を超えていると推定される。

日本はアメリカやヨーロッパの国々と比べて感染率・死亡率は低いが、東アジアの中では高い方である。10月末からの第三波で重症者、死亡者が増えている。最終的には死亡者は1万5千人位までなるのではないかと予測される。

コロナの不安と葬儀の変化

コロナで亡くなられた方の遺族は看取りも火葬への立会いも出来ないというショックを受けた。遺体からの飛沫感染はなく、感染リスクは納体袋の破損等による接触感染のみと低いが、遺体の処置、搬送、葬儀、火葬等に関わる人は不安を抱きながら業務にあたっている。また濃厚接触者には定義があるものの、遺族が濃厚接触者ではないかと関係者を不安にさせている。

人間の最期の場面に尊厳を持って携わりながら、関係者の安全・安心に対して最大限に配慮し、両立を図ることは極めて重要な課題である。

通夜・葬儀の場でクラスターが発生と専門家会議が注意喚起したが、報道されたのは5件のみであった。通夜・葬儀の飲食で感染した可能性がある。その他、市中感染した葬祭業業者の経営者、従業員の事例も確認されている。

感染への不安から自粛にはしった宗教家やコロナの死者の葬儀を拒否する業者も多くあったようである。葬儀の宗教離れが加速している。

昨年7月以降には3密をさけて会食を控え、少し葬儀が回復に向かった。随時焼香(献花)、自由焼香、事前焼香とも言われ、式場内の葬儀と一般会葬者の会葬を分離するようにした。オンライン葬儀もでてきたが、葬儀社のITリテラシーが低いため、実際は1割未満と意外に少ないが、今後は葬儀に出席できない超高齢者や外国等遠隔地に住む家族のために一定の需要があるだろう。クラスター発生を怖れて老人介護施設や病院では面会謝絶などの制限をかけ、コロナでなくても看取りが困難な状況は依然として続いている。

2021年1月の緊急事態宣言によりお別れ会などが中止、延期になっている。

葬儀の見直しが必要

直葬でも、少人数であっても遺族が火葬・拾骨に至るまでの時間、および死亡後一カ月間の死者と向き合う時間は大切である。東海地方ではコロナで亡くなっても、遺族が顔を見て、お別れができるように納体袋を工夫をした事例もある。

コロナ禍で看取りが大きく制限を受けている中、死亡後の死者との向き合いまで十分に行われないなら、それこそ「弔いの不在」となる。

「どんな人も置き去りにしない」(SDGs)は弔いにおいてこそ大切にしなければならない。

歴史から見ても、人間の生存権を脅かす最大の危機とは貧困、戦争、自然災害、そして感染症である。葬祭関係者は社会的にはエッセンシャルワーカーであることを自覚してほしい。同時に「個別の物語」である個々の弔いに拘ることが大切である。人の弔いも危機においてこそ、ないがしろにされるべきではない。

 

【今後の予定】

2月18日(木)18:30~ 会誌『葬送文化22』の研究報告会

3月18日(木)18:30~ 宮澤安紀氏(筑波大学博士課程)の講演

「イギリスの葬送事情について」

(橘 さつき 記)

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